耐震改修、断熱改修の実施状況 ~費用や工期がネックに?~
耐震改修、断熱改修の重要性については、本ホームページの中だけでなく、いろいろな場面で語られ、また国や自治体による補助制度も用意されています。しかしそれにもかかわらず、必ずしも実施例が多いとは言えない状況です。
下の表は総務省が行った平成30 年(2018年) 住宅・土地統計調査から抜粋したものですが、耐震改修(ここでは「壁・柱・基礎等の補強工事」)又は断熱改修工事(同「窓・壁等の断熱・結露防止工事」)を実施した割合は他の改修工事を実施した割合と比較して著しく少ないことが分かります。
また、同調査には耐震診断、耐震改修実施状況の報告があります。それによれば、1980年以前に建てられた住宅は2018年時点で約900万戸、そのうちの相当数が戸建住宅であると思われますが、その中で2014年以降に耐震診断を行った住宅は約47万戸、そのうち半数近い約23万戸は耐震性が確保されていないという診断結果でした。
省エネ改修については、エコポイント制度など国の一連の補助制度による改修事例では設備機器の更新や窓の改修がほとんどで、躯体の断熱改修まで実施する事例は少数に留まるというのが実態です。
これらの理由としては、耐震改修や断熱改修に対する住まい手の認識が十分でないというだけではなく、これらの改修工事の必要性は認めても、実際に実施するとなれば大がかりになり費用や工期が嵩むということが挙げられるかと思われます。
耐震改修+断熱改修の優位性 ~設計者・施工者・施主で情報共有を~
SIR工法は外張断熱工法をベースとした断熱耐震改修工法です。外張断熱工法は躯体の外側から連続した断熱層を設ける優れた断熱工法ですが、改修工事に適用する場合には外装材を撤去する必要があるなど工事が大がかりになるという難点があります。一方、耐震改修工事でも構造用面材による補強を行う場合や柱脚・柱頭などの接合部の補強を行う場合には外装材の全部又は一部を撤去する必要が生じます。外装材を撤去することは躯体の劣化部分を確認、補修できるという意味でも有利ではありますが、工事が大がかりになる点は外張断熱による改修の場合と同様です。しかし、耐震性能と断熱性能の改善をひとつの工事として実施でき、しかもそれぞれに十分な改修効果が期待できる工法であれば、それらを別々に行う場合と比較して費用面や工期面でメリットがあります。
もともと、右表のように構造用面材による耐震改修と外張断熱改修は共通の工程が多く、両者の工事内容を併せ持つSIR工法には工事費や工期の面で大いに優位性があるといえます。
また、各種の支援制度の活用も改修工事の実施を判断する上で有効なものとなります。特に、支援制度と減税措置の併用、あるいは減税措置間での併用を上手く活用することによって、相応の負担軽減を図ることが可能になります。
耐震改修、断熱改修の普及のためには、住まい手の方々にそれらの重要性や改修効果について理解いただくことはもちろん必要ですが、工法選択や各種支援策の有効活用など負担軽減に関する情報を、設計者、施工者、施主の皆様が共有していくことも重要です。
当協会では住宅所有者の皆様に耐震改修及び断熱改修の必要性を理解いただくためのパンフレットを制作しているほか、当ホームページにも施主の皆様に向けたページを設けています。
SIR工法のより広範な活用 ~2000年以前の新耐震基準住宅にも~
木造住宅の耐震改修は昭和56年(1981年)以前に建築された旧耐震基準の住宅を対象として考えられることが多く、自治体の支援策もこうした旧耐震基準の住宅を対象として制度化されているのが一般的です。
2016年に発生した熊本地震における木造建築物の被害状況を調査した結果では、右図のように1981年5月以前に建築された旧耐震基準の建物ではそれ以降に建築された新耐震基準の建物と比較して大きな被害が生じました。
しかしそればかりでなく、建築年が2000年の前後でも被害状況に差が生じる結果となりました。これは2000年の建築基準法改正で柱や筋交いの接合部仕様が規定されるなど基準が強化されたことが影響しているものと考えられます。つまり1981年以前の住宅だけではなく、新耐震基準による住宅でも2000年以前に建築された場合には耐震改修の対象となるといえます。
一方で、耐震基準の強化と省エネ基準の改正を時系列で見てみると、下図のように、建築基準法改正時期は昭和55年基準及び平成11年基準制定時期とほぼ一致しています。2000年前後は現行の外皮基準の住宅が建設され始めた時期であり、つまりそれ以前に建築された住宅は耐震性能だけでなく、断熱性能においても十分ではない可能性が高いとも言えます。 こうした住宅は今後大規模改修を行うことも多いと思われますが、2025年の省エネ基準義務化も迫る中、耐震性能と断熱性能の向上を同時に実現するための方法としてSIR工法は非常に有効であるといえます。
耐震基準強化と省エネ基準改正の変遷
耐震改修・断熱改修に対する各種支援制度
SIR工法では既存外装材を一旦撤去する比較的規模の大きな改修工事になるため、相応の費用が発生することになります。しかし、SIR工法は断熱耐震改修工法なので耐震改修と断熱改修を同時に行うことができ、これらを別個に行う場合と比較すると改修費用の総額を抑えることが可能となります。前の項で示した通り、耐震改修、断熱改修が必要となる住宅の築年数は近い傾向があるため、これらを同時に行うことが合理的である場合も多いといえます。
国や自治体では各種リフォームに対する支援制度を設けていますが、改修費用の負担を抑えるためにもこれらを積極的に活用することをお薦めします。SIR工法による改修工事では耐震リフォームと省エネリフォーム(躯体の断熱改修を対象にするもの)に対する支援制度の対象となります。
ただし、国が行う支援制度の場合には、同一の工事において複数の支援制度の併用申請はできません。自治体が行う耐震診断や耐震改修設計・工事に対する支援においても国の補助を受けている場合には併用申請ができません。併用申請を検討する場合には事前に自治体に照会することが必要です。併用申請ができない場合には、当該案件の状況に照らして最適な制度を選択いただくのがよろしいかと思います。
一方、リフォームに係る税の特例措置(所得税減税、固定資産税減額)については、通常、補助金との併用が可能です。
こうした支援制度の活用に関する情報をお施主様と共有しながら改修計画をお進めいただくことも断熱耐震改修の普及に資するものと考えます。