省エネルギー基準の変遷
日本ではオイルショックを経てエネルギー需要を抑える必要性が生じたという背景から1979年(昭和54年)にエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)が施行され、翌年には省エネ基準(昭和55年基準)が制定されました。平成11 年基準までは改正ごとに基準が強化されてきましたが、それ以降は基本的な外皮の断熱性能はそのままに、性能指標の変更や一次エネルギー消費量基準が導入されるなどの改正が行われてきました。
2015年(平成27年)には建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)が公布されました。2019年の改正により、300㎡以上の非住宅建築物が省エネ基準適合義務化となるほか、300㎡未満の住宅を含む全ての建築物に対しては建築士から建築主に対する省エネ性能説明責任の義務化が課せられることとなり、2021年(令和3年)に施行されました。
さらに、2022年(令和4年)6月には改正建築物省エネ法が公布され、2025年(令和7年)に住宅を含む全ての建築物において省エネ基準適合義務化が施行されることとなりました。
省エネ関連法令・基準の変遷
時 期 | 法律制定・改正等 | 内 容 |
---|---|---|
1979年(昭和54年) | 省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)施行 | |
1980年(昭和55年) | 省エネ基準(昭和55年基準)制定 | |
1992年(平成4年) | 平成4年基準(新省エネ基準)制定 | 基準強化(外皮) |
1999年(平成11年) | 平成11年基準(次世代省エネ基準)制定 | 基準強化(外皮) |
2013年(平成25年) | 平成25年基準制定 | ・外皮基準の指標変更 Q 値⇒UA 値、μ値⇒ηAC 値 ・一次エネルギー消費量基準導入 |
2015年(平成27年)7月 | 建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)公布 | |
2016年(平成28年) | 平成28年基準制定 | 2000㎡以上の建築物に基準適合義務化※ ※非住宅建築物のみ、施行は平成29年4月~ |
2021年(令和3年)4月 | 改正建築物省エネ法施行 | ・300㎡以上の非住宅建築物に基準適合義務化 ・300㎡未満の建築物(住宅含む) に省エネ性能説明責任義務化など |
2022年(令和4年)6月 | 改正建築物省エネ法公布 | 全ての新築住宅・非住宅の省エネ基準適合義務化(2025年施行予定) |
住宅の省エネルギー基準
住宅の省エネルギー基準は次の2つで構成されています。
外皮性能基準
「外皮平均熱貫流率UA」は断熱性能、「冷房期の平均日射取得率ηAC」は日射遮蔽性能を示す指標です。基準値は次の通りです。
(1) 外皮平均熱貫流率UA [ 単位:W/(m2・K) ]
(2) 冷房期の平均日射取得率ηAC[ 単位: ― ]
(3) 基準値
外皮平均熱貫流率、冷房期の平均日射取得率がそれぞれ下表の数値以下であること
地域区分 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
外皮平均熱貫流率UA[W/(㎡・K)] | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 | – |
冷房期の平均日射取得率ηAC[-] | – | – | – | – | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 6.7※ |
※ 8地域の基準値は3.2から6.7に見直し(2020年(令和2年)4月施行)
一次エネルギー消費量基準
以下の判定方法と指標があります。
(1) 一次エネルギー消費量の判定
一次エネルギー消費量は、国立研究開発法人建築研究所が公開している「エネルギー消費性能計算プログラム(住宅版)」を使用して算定します。当該住宅の設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量より小さいことが必要ですが、ここで「家電等に係る一次エネルギー消費量」については、省エネ手法を評価せず、設計一次エネルギー消費量と基準一次エネルギー消費量を同じ値とします。
国立研究開発法人 建築研究所特設ページの技術情報「省エネ基準・認定基準」から「住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム」に進んでください。
(2)BEI(一次エネルギー消費量の指標)
BEI(Building Energy Index)は基準一次エネルギー消費量に対する設計一次エネルギー消費量の割合で、それぞれ上図から「家電等エネルギー消費量」を除いた量の比となります。
省エネ基準の評価方法
下図にようにいくつかの評価方法があります。
仕様ルート(下図④)では、外皮性能は部位ごとに設計仕様と基準値とを照合し、また一次エネルギー消費量は計算プログラムではなく設備の仕様で判断をします。標準計算ルート(下図①)や簡易計算ルート(下図②)では、外皮性能UA、ηACを計算によって求め、一次エネルギー消費量は国立研究開発法人建築研究所が公開している「エネルギー消費計算プログラム(住宅版)」を使用して算定します。①と②の違いは部位面積算出の有無にあります。また、より簡潔な方法として断熱材、開口部や設備機器をメーカーのカタログ等から選択して簡易計算シートで計算するモデル住宅法(下図③)もあります。
これらの方法を比較すると①から②、③、④と進むほど、手間が省略できる分、安全率を考慮しているため、より高い断熱性能あるいは高性能な設備機器が必要という結果になる傾向があります。
但し、後述の2022年(令和4年)公布の改正建築物省エネ法施行後(2025年4月以降)は、上記のうち②、③は使用できなくなり、標準計算ルート(①)又は仕様ルート(④)のいずれかで評価することとなります。
令和4年公布建築物省エネ法改正について(令和7年施行)
ここでは、2022年(令和4年)6月に交付された改正建築物省エネ法のうち、2025年(令和7年)に施行される適合義務制度を中心に説明しています。
適合義務制度
現在は中規模(300㎡)以上の非住宅建築物が省エネ基準適合義務の対象ですが、改正後は住宅を含む全ての建築物が対象となります。
適合性判定機関又は行政庁の省エネ適合性判定を受けた後、確認申請の際に提出することが必要となります。
届出義務制度
現在、中規模(300㎡)以上の住宅は省エネ性能届出義務の対象ですが、改正後、届出義務制度は廃止されます。
説明義務制度
現在、小規模(300㎡未満)の住宅・非住宅は説明義務制度の対象ですが、改正後、説明義務制度は廃止されます。
住宅トップランナー制度
現在、「年間150以上分譲戸建を供給する事業者」、「年間300戸以上注文戸建を供給する事業者」、「年間1000以上賃貸アパートを供給する事業者」がトップランナー制度の対象ですが、改正後は「分譲マンション事業者」も対象に追加されます。
建築物省エネ法改正(国交省)地域区分
地域区分は2019年に見直しが行われました。現在の地域区分は以下から確認できます。
省エネ基準地域区分新旧表ZEH基準・HEAT20 G1~G3
令和4年10月の品確法告示改正により、住宅の断熱等性能等級に従来の等級5の上位等級として等級6、7が創設されました。表示方法基準による性能値は次の通りです。
建築基準法改正
2022年6月に公布された改正建築基準法は順次施行されていますが、このうち3年以内(2025年4月)に施行される以下の内容についてご説明します。詳細は末尾に示した国交省のホームページ等をご参照ください。
建築確認・検査の対象となる建築物の規模等の見直し(4号建築物)
都市計画区域外では、現在は階数2以下かつ延べ面積500㎡以下の木造建築物は4号建築物として建築確認の対象外ですが、改正建築基準法の施行(令和7年4月)により、階数が2以上又は200㎡以上の建築物は構造によらず新2号建築物として建築確認が必要になります。
また、都市計画区域内では、新2号建築物は構造関係既定の審査が必要となります。
木造建築物の壁量基準の見直し
現行では「重い屋根」、「軽い屋根」という区分で必要壁量、柱の小径を算定しますが、高性能サッシや太陽光発電設備搭載に伴う屋根、外壁の重量増を考慮し、改正建築基準法施行後は木造建築物の仕様の実況に応じて必要壁量、柱の小径を算定することになります。
また、垂れ壁や腰壁などの準耐力壁を壁量計算の際に考慮することや、壁倍率5倍以上の高耐力壁が認められるようになります(当面7倍まで)。
改正建築物省エネ法、改正建築基準法に関する最新情報
改正建築基準法・改正建築物省エネ法の円滑な施行に向けて、国土交通省では改正内容を周知するために情報発信を行っていますので、ご参照ください。
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